研究

研究で失敗するのが怖い

電車の中で、冷や汗がとまらなくなったことがある。 大学院の卒業間近の頃だ。 その日僕はいつものように一番後ろの車両の隅に立って、スマホで論文を読んでいた。 朝のラッシュは過ぎた後で、電車は空いていた。 窓から射し込んでくる光がまぶしかった。 見…

論理性を鍛える方法

「その論理はちょっと私にはわかりませんね」 僕は学生のとき、いったい何回先生にそう言われたんだろう。 研究の打ち合わせのときや、ラボのミーティングで、あるいは論文を添削してもらったときなんかに、先生は僕によくそう言った。 そんなとき僕は、「論…

察することを求めない

* * * 「先生は元気?」 と、彼女が私に聞く。 「変わらない」 と私が言うと、彼女は笑う。 私と彼女は同じ研究室の同期だった。 研究室を卒業した後、彼女は地方の大学の講師になり、私はポスドクとして東京に残った。 先生と話すのは苦手だったな、と彼…

大学で楽しく学問をしてほしい(2)

(前回記事↓) 「簡単に卒業論文が書ける研究テーマってなんだろう?」 それが研究室に入ったとき、僕がまず考えたことだった。 ほかの研究室に入った友達によると、卒論のテーマは先生が教えてくれるらしい。 「研究テーマの候補を先生がいくつか出してくれ…

大学で楽しく学問をしてほしい(1)

夏は高校生とお話できる季節だ。 オープンキャンパスのおかげである。 もしそんなイベントがなければ、いつも研究室に引きこもっている僕に、青春そのものみたいな人たち(高校生)と言葉を交わすチャンスなどない。 ありがとう、ありがとうオープンキャンパ…

楽しく研究の話がしたい

「なんでうちの研究室を選んだの?」と、学生に聞いたことがあります。 学生たちの答えは、 「研究テーマがとても面白そうだった」という建前から、 「研究室の場所が家から近かった」などの本音まで、さまざまでした。 そんな理由の中に、 「研究室見学に行…

常識?

遠い昔、ダウンタウンのまっちゃんと元SMAPの中居くんがダブル主演でドラマをやっていた。 (伝説の教師 VOL.1 [VHS]) そのころまだ子どもだった僕は、そのドラマのマネをして、 「常識ぃ? その常識って誰が決めたんじゃい!」(まっちゃんのセリフ) とか言…

先生って呼ぶのは無しで

先生は「先生」って呼ばれるのをきらってた。 私はそれを、先生の照れだと思ってた。 「先生なんてガラじゃない。フランクにいきましょう」みたいな。 でも私からしたら、それは逆にやりにくい。 大学にいるかぎり、先生は先生で、私は学生だ。 「先生」って…

人は知ってることしか見えない

大学院に入ったばかりの頃、配属された研究室で研修を受けた。 僕は先輩について回って、実験機器を使ってみたり、実験ノートのとり方を教えてもらったりした。 ある日、先輩が先生たちとミーティングをするというので見学させてもらった。 そのときのことは…

質問しないことは悪いことなのか

「他に質問はありますか?」 と、先生が聞いた。 みんなは何も言わない。 「では、終わりましょう」 先生のその言葉で、研究室のセミナーは終わった。 私のいる研究室では、週に一度セミナーがある。 セミナーでは、研究室のメンバーが持ち回りで研究の進捗…

「わかった」にとりつかれて研究者になる

図書館に行くのが好きだ。 書架に並んでいる本を眺めながら歩いていると心が落ち着く。 研究室での作業に疲れたときは、よく図書館に行ってただぼんやりと歩いている。 静かな空気や紙の匂い、絨毯をふむ感触が好きだ。 晴れた日には窓際の机につっぷして寝…

なぜ博士号をとったのに大学教員にならないのか

春が来て、僕の少ないポスドク(博士研究員)仲間たちがまた何人か大学を去っていった。 一流大学で博士号を取り、一流論文誌に研究を発表した彼らが、それでも大学教員になることをやめた理由はさまざまだ。 お金だったり、子どもだったり、別にやりたいこ…

「自分の頭で考えること」を学ぶ

「学生と先生②」はこちら いい大学に入るために「自分の頭で考えること」をやめた 振り返ってみれば、高校を卒業する頃、僕は「自分の頭で考える」ということをすっかりやめてしまっていたように思う。 良い(偏差値の高い)大学に入学するためには、自分の…

「研究では食べていけない」をトレーラー運転手になった飛び級入学者の記事で考える

佐藤和俊さん(39)の新聞記事を読んだ。 今から22年前、佐藤さんは飛び入学制度の日本初の合格者になった。 千葉大学が、高い専門能力を持つ「とんがった高校生」のために作った制度だった。 佐藤さんは<物理のスペシャリスト>として、当時17歳で大学生に…

大学の研究室に初めて入った日の話

「来月からお世話になります!よろしくお願いします!」と、彼は僕に頭を下げた。 4月から新しくうちの研究室に入ってくる、修士1年生の男の子。 「こちらこそ、よろしくお願いします」と言いながら、僕は彼のキラキラした目を見ていた。 きちんと整えられ…

論文の数や雑誌を言わなくたっていつか伝わること

そのスライドが映された時、会場から拍手が起こった。 僕の隣にいた先生が、すばらしい、とつぶやいた。 とても綺麗なデータだと、僕は思った。 だけどそんなにすごいものだろうかと、不思議にも思った。 *** 僕が大学4年生だった時、学内で開催されたシ…

学生と先生のあいだ

僕が最後に学生だったときからもうずいぶん時間はたっていて、だけど先生になるのはまだ先のような気がする。 そんな学生でも先生でもないからわかることもあると、思うことがある。 講義とか学生の指導や研究室運営のもろもろを義務としてやるようになると…

もし知っていたらダメな研究計画書を書かずに済んだこと

「研究計画書を書いたので見てもらえませんか?」 と学生からメッセージが届いた。 添付されていたそれを読んでいると、僕が研究計画書を初めて書いた頃のことを思い出した。 今からもう7年くらい前のことだった。 あの時、僕はどうにかして採用される計画…

研究について議論する時はスポーツだと思うといい

僕が初めて研究議論の仕方を教わったのは、大学3年生の時でした。 当時僕が取っていた講義で、グループで好きなテーマについて調べて発表することになりました。 発表会の日、僕たちは調べた結果について10分くらいのパワポ発表をしました。 質疑応答の時…

論文とか先生や先輩が何言ってるのかわからなくて絶望したとき

研究は愛と好奇心でできている、と彼女は別に言ってないけれど

研究室の建物を出ると、夕焼けで空がオレンジ色に染まっていた。 人がまばらになったキャンパスで、学生の男女が二人楽しそうに歩いていた。 男の子が何か言うと、女の子が笑って男の子の腕を叩いた。 男の子は大げさに痛がって、それから女の子と手をつない…

誰かの論文を読むとき、自分が研究者に向いているかわかる

科学論文を読むということをどれくらいの人がするのだろうか。 本屋でたまたま手に取った本をみていると、ふとそう思った。 アメリカ人の医師が書いたというその食事に関する本には(まるで僕らが普段目にする専門書みたいに)10ページ近い参考文献リストが…

研究室をえらぶ理由をもし一つだけあげるなら

(指導教員への圧倒的感謝をこめて) 「そうですか、お名前は?」 「森野といいます!」 そのときぼくは、居酒屋の個室の前で、ひっしに自己紹介をしていた。 部屋の中には先生たちがたくさんいて、一番奥の先生は学会の会長をしているそうだ。 ぼくのとなり…

「研究が楽しいから」と言うたびに僕が思うこと

「何で大学院に行ってるんですか?」 はじめて行った街コンで、出会った彼女はそう言った。 「何でって…研究が楽しいから」 ぼくはそう答えた。 「ふぅん。どんな研究してるの?」 「薬を作る研究。抗がん剤とか」 ほんとはぼくの研究はもっと基礎的なもので…

はじめに、はかせになりたいと思ったとき

(このブログの紹介記事です) はじめまして、森野キートスです。 ぼくがはじめて研究者になりたいと思ったのは、大学3年生のある日のことでした。 その日はあたたかく晴れていて、大学の食堂で昼ごはんを食べたあと、先生の部屋に向かいました。 ぼくの学…

どうして修士卒で就職せずに博士課程に進むのか

世界の主要国で博士号取得者の数が増え続けている。 そんな中、「優秀な学生がどうしてお金を借りてまで博士課程にいき、博士号を取ろうとするのかわからない」という海外の記事を見かけた。 企業に就職すれば、研究をしながら高い給料がもらえるのに、とい…

研究発表の準備をしようと思っていた大学院生の9時間15分の恋

地上一万メートルの上空で、そのときぼくは恋をしていた サンフランシスコ行きの飛行機の中で、ぼくは隣に座っている女の子と今観たばかりの映画について話をしていた。 こんなことを書くと、日頃モテなさすぎてついに妄想の世界の住人になったかと思われそ…

博士になりたい情熱とお金がない現実のあいだ

こんばんは、森野キートスです。 急に寒くなってきましたね。 長袖を引っ張り出した今日この頃ですが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。 僕は最近少しカレーを食べ過ぎました。 カレーにフォークはありです(後悔)— 森野キートス (@ki1tos) 2018年9月16…

修士1年目から給付型奨学金をもらった件(リーディング大学院って何ですか?)

こんばんは、森野キートスです。 いま外で鈴虫が鳴いてます。秋ですね。 涼しい秋の夜長、みなさまいかがお過ごしでしょうか。 僕はさっきまで靴を磨いてまして、防水スプレーをかけたら少し吸ってしまってちょっと気持ちが悪いです、あぁ脳が震える。 本日…

AmberでMD計算するときの圧力制御法の違い

研究メモ。 タイトルについて日本語でざっくり書いてある記事がなかったので書いておきます。 Amberで温度圧力一定(NPT)のMDをする場合、圧力制御法は2つあって(Amber18現在)、Berendsen法とMonte Carlo(MC)法。 これらはMDのインプットでbarostat=1(…