夏は高校生とお話できる季節だ。
オープンキャンパスのおかげである。
もしそんなイベントがなければ、いつも研究室に引きこもっている僕に、青春そのものみたいな人たち(高校生)と言葉を交わすチャンスなどない。
ありがとう、ありがとうオープンキャンパス。
さて、ここまでの4文で僕は少しあやしい人になってしまいましたが、
皆さま、僕はあやしいものではありません。
純粋に学問的な意味で、僕は高校生と話せるのがうれしい。
高校生がキラキラした目で僕たちの研究室や実験機器を見てくれる。
研究について素朴な質問をしてくれる。
大学生活への期待や不安を話してくれる。
僕のジョークを鼻で笑ってくれる。
そういうことに僕はとてもうれしくなる。
大学や研究に対するまっさらな好奇心を感じる。
そんな高校生の皆さんが、楽しい大学生活を送ってくれればいいなと思う。
できれば高校の延長みたいな勉強生活や、就職の準備だけで終わってほしくない。
大学は学問をするところである。
『学問のすすめ』を書き、慶応義塾をつくった福澤諭吉先生は、学問にのめりこみすぎて自分の家に枕がないことに気づくまで1年かかった。
まくらがない、どんなに捜してもないというので、ふと思いついた。
これまで倉屋敷に一年ばかりいたが、ついぞまくらをしたことがない、というのは時はなんどきでもかまわぬ、ほとんど昼夜の区別はない、日が暮れたからといって寝ようとも思わず、しきりに書を読んでいる。
読書にくたびれ眠くなってくれば、机の上に突っ伏して眠るか、あるいは床の間のとこぶちをまくらにして眠るか、ついぞほんとうにふとんを敷いて夜具を掛けてまくらをして寝るなどということは、ただの一度もしたことがない。
そのときに初めて自分で気がついて「なるほど、まくらはないはずだ、これまでまくらをして寝たことはなかったから」と初めて気がつきました。
福澤諭吉『福翁自伝』pp.77-78
学問はそれほど楽しいものである。
高校生の皆さまにも、大学でそんな学問の楽しさにふれてほしいと思う。
でもそういう僕が学問の楽しさに気がついたのは、もう大学4年生のなかばも過ぎた頃だった。
それまでの3年半、僕の大学生活は何がダメだったのか、ここで考えてみたい。
オープンキャンパスで聞いたこと
もう10年以上前の夏、僕は高校生だった。
僕の通う高校は山に囲まれていて、どの教室の窓からも緑の山と青い空が見えた。
学校帰りにデートするなら、古いボーリング場か神社という田舎でずっと高校生活を送っていた僕は、
「絶対に都会の大学行く」と決意していた。
都会にさえ行けば彼女ができると信じていた。
おしゃれなカフェさえあれば。
暑さのピークが過ぎた8月のある日、僕はまだ薄暗い時間に家を出て、1時間に1本しかない電車に乗った。
第一志望の大学のオープンキャンパスの日だった。
終点の大きな駅で電車を乗り換え、大学の最寄り駅からバスに乗った。
初めて入った大学のキャンパスからは、遠くに海が見えた。
何百人も入れそうな大きな講堂で、入試やカリキュラムの説明を聞いた。
「大学生になったら、こんなふうに講義を聞くんだろうな」と想像して興奮した。
そのあと、大学の研究室をいくつか見学してまわった。
大学生の人たちが研究のポスターを説明してくれたり、実験機器を見せてくれたりした。
話の内容はほぼ覚えてないけど、
「何か質問はありますか?」と聞かれて僕は、
「なんでこの研究テーマを選んだんですか?」と聞いたことは覚えている。
学生のお姉さんは、
「カエルが好きだから」と笑って答えてくれた(カエルの生態の研究だった)。
それがとても可愛かった。この研究室に入ろうと思った。
僕の研究室の選択基準はさておき、
いま考えると僕はこのとき、とても大事なことを教えてもらっていたように思う。
染みついてしまった受験のコツ
高校生の僕は「いい大学に入れば将来らくになる」と信じていて、勉強をがんばっていた。
受験勉強や模試で僕が知ったのは、良い点を取るためには勉強するだけじゃダメだということ。
点を取るための技術を知らないと、いい大学に合格するほどの点数は取れない。
たとえば「英語の読解問題のコツは、なるべく英文を読まないこと」とか、「数学のコツは、できるだけ計算しないこと」とか。
そんな点を取るためのテクニックの中で、いちばん簡単なのが「解けそうな問題から解く」だ。
限られた時間の中で、できるだけ多くの問題を解くために、難しそうな問題は後回しにする。
僕はそれをずっと身体に染みこませてきた。
テストのたびに何度も何度も「この問題は解けそうかどうか」をまず考えた。
大学に入ってからも、僕はそうやってテストで点を取って単位を集めた。
4年生になって卒業研究に取りかかったときも、僕はまず解けそうな問題を探した。
「いちばん簡単に卒業論文が書けそうな研究テーマは何だろうか?」と。
そしてようやく僕は間違いに気がついた。
(つづく↓)