いつか博士になる人へ

あるポスドク研究員の思い出

【8コマ】学生と先生のあいだ

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僕が最後に学生だったときからもうずいぶん時間はたっていて、だけど先生になるのはまだ先のような気がする。

そんな学生でも先生でもないからわかることもあると、思うことがある。

 

講義とか学生の指導や研究室運営のもろもろを義務としてやるようになると、先生の気持ちがたまにわかる。

似たようなことは学生の時もやっていたのに、見えるものが変わっていくのは面白いなと思う。

 

「わかりません、って言うとすっごい怒られるんですよ」

と、ある日学生が言っていた。彼女がとっている講義の話だった。担当の先生が厳しくてよく学生に質問をあててくるらしい。

「わからないとはどういうことだ、って。だから、すいません聞いてませんでした、って言ったら今度は、なんで聞いてないんだ、って。もうすごい怖いんですよー」と彼女は言う。

すると他の学生たちが、

「とりあえずなんか考えて言えばいいんだよ。間違っててもそんなに怒られない」

「そうそう、あの先生はなんていうか、考えようとする姿勢を評価する感じ」と言った。

「そうなんだ。でも私あの授業初回出てなかったから全然ついてけてないんだよね」と彼女は笑っていた。

 

学生たちの話を聞いていて、僕は自分が学生だったときのことを思い出した。

あの頃もそんな先生はいて、自分は何を聞かれるんだろうかとドキドキしていた。

普通にやさしく教えてくれればいいのに、と思ったこともあった。

 

でも今は、そんな先生方は偉大だったなと思う。

講義では、ただ情報を学生に伝えればいいわけではない。

 

「先生は本当に考えてほしいんだと思うよ」と、僕は彼女に言ってみる。

「ただ知識をつけるだけならググればすむ時代だし。先生もいじめたいわけじゃなくて、考えること自体がすごく大事なことなんだよ」と僕は言った。

「あー、魚をくれるんじゃなくて、釣り方を教えてくれるみたいなことですか?」と彼女は言ったから、僕はうまく伝わったと思って喜んだ。そう、それそれ。

彼女はそれでもまだ少し不満そうで、

「うーんでも、もうちょっと優しい教え方もあると思うんですよね」と言った。

それは昔の僕の気持ちをわかってくれたみたいで嬉しかった。

 

僕は今そんなふうに先生と学生の気持ちのあいだを行ったり来たりしている。

それでいつか僕は学生だったときの気持ちを忘れるんだろう。

それでも先生方をみていると、情報や知識そのものよりもずっと学ぶべきことが他にあると、伝えられる先生になれたらいいなと思う。