この漫画をツイッターに投稿したら、「横の関係、という言葉が『嫌われる勇気』に出てくる」と教えてくれた人がいました。
(@hassy_07さん、ありがとうございました)
さっそく本を読んでみたところ、「なぜ人をほめたり叱ったりするのがダメなのか?」ということが非常にわかりやすく書いてあったので、簡単に紹介します。
「横の関係」とは?
ほめてはいけないし、叱ってもいけない。
ほめるという行為には「能力のある人が、能力のない人に下す評価」という側面が含まれています。夕飯の準備を手伝ってくれた子どもに対して「お手伝い、えらいわね」とほめる母親がいる。しかし、夫が同じことをした場合には、さすがに「お手伝い、えらいわね」とはいわないでしょう。
われわれが他者をほめたり叱ったりするのは「アメを使うか、ムチを使うか」の違いでしかなく、背後にある目的は操作です。
誰かにほめられたいと願うこと。あるいは逆に、他者をほめてやろうとすること。これは対人関係全般を「縦の関係」としてとらえている証拠です。
(pp.196-198より抜粋)
『嫌われる勇気』は、アドラー心理学の考え方を解説した本です。
上の例のように、アドラー心理学で「縦の関係」は上下関係のことで、支配したりされたりする人間関係だ、と否定的にとらえられています。
それに対して「横の関係」とは、自分と相手は「同じではないけれど対等」とする関係です。
この「横の関係」で人間関係を作れると、誰かをほめたり叱ったりする必要はなくなると考えられています。
なぜ人をほめたり叱ったりするのがいけないのか?
誰かをほめたり叱ったりすると、その人と「縦の関係」を作ることになる。
つまりはその人を操作しようとしてしまう、と先ほど紹介しました。
しかしそれのなにがダメなのか? と疑問に感じる人もいるかもしれません。
「操作する、というと聞こえが悪いかもしれないけれど、要は人を良い方向に導こうとすることじゃないか」という考えです。
その点について、次のような説明がありました。
適切な行動をとったら、ほめてもらえる。不適切な行動をとったら、罰せられる。アドラーは、こうした賞罰による教育を厳しく批判しました。賞罰教育の先に生まれるのは「ほめてくれる人がいなければ、適切な行動をしない」「罰する人がいなければ、不適切な行動もとる」という、誤ったライフスタイルです。
(p.134より)
あなたがほめたり叱ったりして、人を良い方向に導くことができたとしても、その人はあなたがいなくなったら、進むべき方向を見失ってしまうということです。
これではたしかに教育ではなく、むしろ支配に近いのではないかと僕は思います。
それでは、どのようにすれば良いのでしょうか?
「横の関係」にもとづく教育
勉強についていえば、それが本人の課題であることを伝え、もしも本人が勉強したいと思ったときにはいつでも援助する用意があることを伝えておく。けれども、子どもの課題に土足で踏み込むことはしない。頼まれもしないのに、あれこれ口出ししてはいけないのです。
ある国に「馬を水辺に連れていくことはできるが、水を呑ませることはできない」ということわざがあります。
自分を変えることができるのは、自分しかいません。
(pp. 142-143より抜粋)
正しい方向に進むことは子どもの課題であり、大人が解決してはいけない。
大人の課題は、それが子どもの課題であることを伝えるところまで。
これは「課題の分離」と呼ばれる考え方で、「人に対して自分はどこまでするべきなのか」を知るためにとても役に立つと思います。
おわりに
僕は大学生の頃、家庭教師のアルバイトをしていました。
あるとき、やんちゃな中学生の男の子を受け持つことになりました。
はじめに、その子のお母さんから「この子はこれまでいろんな先生が担当してくれたけれど、まったく勉強しなかった」と聞かされました。
そして、「厳しく指導してください。やらなかったら叱り飛ばしてください」と言われました。
僕は一生懸命、叱ったりほめたりしました。
「いいかげんにしろ」とか「すごいじゃん」とか。
でも僕自身は、そんなふうに言われて勉強したことなんて一度もなかったから、「勉強ってこんなふうにするものなのだろうか」と悩みました。
あの頃の僕がこの本を読んでいたら、もっと違う関わり方ができたんじゃないかと思います。
彼と、彼のお母さんと、僕。3人とももっと幸せになれるようなやり方があったように思います。
『嫌われる勇気』は素晴らしい本でした。
ここで紹介したこと以外にも、
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なかなか作品を書き上げられない小説家について
時間さえあればできる、環境さえ整えば書ける、自分にはその才能があるのだ、という可能性の中に生きていたいのです。
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学歴に悩む人ついて
もし「わたしは学歴が低いから、成功できない」と考えているとすれば、それは「成功できない」のではなく、「成功したくない」のだと考えなくてはなりません。
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自慢する人について
もしほんとうに自信を持っていたら、自慢などしません。劣等感が強いからこそ、自慢する。そうでもしないと、周囲の誰ひとりとして「こんな自分」を認めてくれないと怖れている。
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自分の誤りを認めない人について
そもそも主張の正しさは、勝ち負けとは関係ありません。あなたが正しいと思うのなら、他の人がどんな意見であれ、そこで完結するべき話です。ところが、多くの人は権力争いに突入する。他者を屈服させようとする。だからこそ、「自分の誤りを認めること」を、そのまま「負けを認めること」と考えてしまうわけです。
などなど、いろんなトピックについて、誰もがぼんやりと感じていることをはっきりと言葉にしてくれる、そんな本だと思います。