初めてポスター発表をする。
そんな日が来る。
研究室に入りしばらくして、研究成果がまとまってきた頃。
研究の楽しさが少しわかってきた、そんな時期。
「学会」、あるいは「研究会」に参加することになる。
初めて参加する人間にとって、それらは憧れとあやしさが混ざったような、不思議な魅力を放っている。
たとえば、子どもの時の「悪の秘密結社」みたいな。
はたして自分の力は通用するのか?
そんな期待と不安に満ちた毎日、それこそがポスター発表をひかえた若き研究者の青春の日々だ。
ただその若さゆえ、およそ効果的とは言えない準備をしてしまうことがある。
その結果、待ち受けているのは、誰もこない自分のポスターの前でポツンと立ち続けるという学会の洗礼である。
あぁ、なんという悲劇か。見ていられない!
それを乗り越えることもまた一興ではあるが、それを回避するための策を今日は考えてみたい。
これは他でもない、かつての自分への救済である。
よいポスター発表とは?
まず、我々はどんな発表を目指せばいいのだろうか?
目標を明確に定めるところから始めてみよう。
研究発表をしたり、聞いたりする目的は情報交換だ。
交換というからには、2つの向きがある。
- 自分→他の参加者
=研究に役立つ情報を提供する - 他の参加者→自分
=研究に役立つ情報をもらう
聞き手に広い意味で役立つというところがポイントで、なんでもいいから話したり聞いたりすればいいわけじゃない。
すぐ使える情報じゃなくても、何かしら興味をそそることだったり、研究意欲を刺激することだったり、つまりは「聞いてよかった」と思うような情報をお互いに伝えあうこと。
これができれば質の良いポスター発表だと言える。
そして「成果=質×量」なので、できるだけ多くの参加者に自分の発表を聞いてもらうことも重要だ。
参加者に自分のポスターへ来てもらうには、参加者は学会でどのように行動するのかを意識することが有効だと思う。
学会参加者の行動パターン
学会で、誰かが誰かの発表を聞く時は、次のような流れをふむと考えられる。
- Attention(発表の存在に気づく)
- Interest(発表に興味をもつ)
- Search(発表や人物について調べる)
- Action(発表を聞く)
- Share(発表について他の人に教える)
これは「AISAS(アイサス)の法則」という、電通が提唱した消費行動プロセスをもとにしている。
1〜5の各段階で、参加者が発表を聞いてくれるように準備したり、行動したりすればいい。
ここまでがポスター発表の基本的な考え方。
準備の準備。
ここからは具体的に、どのようにポスターを作って、発表すればいいのかを考えてみる。
1.発表の前
「すべては立ち止まって注目してもらえるポスターを制作することからはじまる」
―今泉 美佳『ポスター発表はチャンスの宝庫!―一歩進んだ発表のための計画・準備から当日のプレゼンまで』
(ちなみに、本の図が一部公開されているので、それだけでも見てみるといいと思う)
ポスター作りにあたっては、まず最初に学会の規定を確認してほしい。
おっと、君がルールに縛られるような人間でないことはわかってるさ。
でも、君がその気になればルールに合わせることなんて簡単だってことも知ってるんだぜ?
(……ただいま深夜3時です。いったん寝ます。)
・遠くからでも読める文字で
見えないと伝わらない。
A0サイズなら、
- タイトル: 100 pt
- 発表者名: 55 pt
- 見出し: 60 pt
が推奨文字サイズ*。
・アイキャッチの図を入れる
文字だと認識するのに時間がかかる。
興味を引く図や写真がポスター上部にある**と見てもらえやすい。
また、印象に残りやすいから、聞いた人が後で思い出す時や、他の人にシェアする時にも役に立つ。
・学会のコンセプトをふまえてタイトルを決める
僕はいつも自分の研究内容だけをみてタイトルを決めがちだった。
でも、学会のキーワード(招待講演とかシンポジウムのタイトルを見るとわかる)を取り入れるようにすると、来てくれる人の数が増えた。
学会の参加者はそういう話を聞きたくて来ているんだ。
・ポスターだけで発表を完結させる
参加者の中には、説明を聞かずにポスターだけ見て帰る人もいる。
だから「もし説明が足りなければ口頭で補おう」と考えるのはやめた方がいい。
*立教大学、大学教育開発・支援センターウェブサイト、プレゼンテーションの準備、付録 ポスター発表のポイント(理系向け)
2.発表本番
発表を聞いてもらうために、聞く人が何を求めているかを考えてみよう。
ポスター発表を聞く側のメリット
- 細かい所までゆっくり考えながら聞ける
- 短時間で関心のある発表だけを重点的に聞ける
- 何度でも遠慮なく質問できる
デメリット
- 質問したり、討論しないと良い情報が得られない
これらのメリットを生かし、デメリットを避けるために何をできるだろうか?
・「何か気になったことがあればすぐ聞いてください」と最初に言う
聞く人に合わせられるのが、ポスター発表の良い所。
聞く人の疑問に答えながら説明していくと、わかってもらえやすい。
・まずは1分くらいで全体を一通り説明する
ここで発表を聞く必要があるかどうかを判断してもらう。
お互いの貴重な時間をムダにしないために。
・意見をくれた人のことをメモする
もらった意見や質問は、くれた人の名前・所属と一緒にメモする。
名刺を交換できるとベスト。
「自分の研究について、誰がどんなところに興味をもってくれたのか」という情報は、自分だけでなく、同じ研究室の人たちにとっても役に立つ。
先生や先輩・後輩も、後でその人と情報交換ができるかもしれない。
・配布資料を用意する
学会が終わった後で、ほとんどの参加者はどんな発表があったかを同じ研究室のメンバーなどと共有する。
その時に役立つ資料を渡せるといい。
学会後の情報交換を促し、次の学会につなげるためにも役に立つ。
A4の紙にポスターを縮小して印刷したものを作って、ポスター横に置いておくと便利。
ただ、論文になっていないデータの扱いに気をつける必要があるので、研究室ウェブサイトの一部を印刷したものとかでもいい。
3.発表の後
・発表記録をつける
学会名:
日時:
場所:
発表タイトル:
発表者:
発表形式・番号:
コメント:(良かった点、改善点など)
・名刺をもらった人にメールする
これがかなり大事で、また見に来てくれたり、思わぬ話につながったりする。
例文↓
件名:〇〇学会議論のお礼(☆☆大・森野)
本文:△△先生
お忙しいところ恐れ入ります。
〇〇学会のポスター発表でお話させていただきました、☆☆大学◇◇研究室の森野と申します。
XXXXについて発表しておりました。
その節は本当にありがとうございました。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
森野キートス
(所属)
(研究室所在地)
Tel:
E-mail:
・業績リストに追加する
Research mapなど、公開のものを使うとモチベーションが上がる。
最後に
ポスター発表のメリットを一言で言うと、多くの人と「一対一で話し合える」こと。
これを書いている2020年4月、そんな機会は完全に失われている。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威をふるっているからだ。
あらゆる学会、研究会は中止、または無期限の延期となっている。
研究室には初めてのポスター発表を控えていた学生たちもいた。
若き研究者の青春の日々が、このような形で制限されることは残念に思う。
もっとも彼ら彼女らは、「今だからできることもあります」とポジティブに捉えているようだけど。
そうなんです、うちの学生は本当に良いことを言うんです(照れ)。
今だからできることもある。
またポスター発表ができる日が来るまで、どのくらい時間がかかるかわからないけれど、そんな日が戻ってくることを信じて、この記事を書いた。
少し前まで僕は、ポスター発表に一番必要なものは、「人がいない時もポスターの前に立ち続ける勇気」だと思っていた。
勇気のない僕は、手持ち無沙汰にならないよう、待っている間に読む用の論文を持っていったりしていた。
でもいま僕がポスター発表できるなら、ポスターの前でぼーっと立ってないで、きっと自分から人に話しかけにいくだろう。嬉しくて。
大切なことはやはり失ってから気づく。
自分のポスターに誰も来てくれなかったらどうしよう、と不安だった頃がとても懐かしく思える。
もしいつかポスター発表をする人が、同じような不安を感じていたら、ポスター発表をしたくてもできなかった頃があったことを、少し考えてみてほしい。