【寄稿】研究者を初めて身近に感じたあの日

学部4回生の、研究室に配属されて1ヶ月くらいのことです。

 

授業の出席率も低く、留年すれすれの成績で研究室に配属された僕は、当時は研究室の具体的なテーマはおろか、なにを扱っているのかさえ、よくわからない状況でした。

そんな感じだったので、自分の研究テーマもなんとなく語呂が良さげだったから、という理由で選びました(笑)

 

しかし決まったからと言って、何をやるのかよくわからないし、そもそもなんのためにやるのかも分からないので、やる気が起きません。

なので僕は、なぜこの研究をするのか、どこが面白いのかを、研究室の教授に聞きに行くことにしました。

 

成績もかなり悪く、しかもこんな生意気な質問をして、僕は生きて帰れるのか?と考えて(自分から深夜のノリで朝方アポのメールしたくせに)後悔しながら、先生の部屋をノックしたのをよく覚えています。

 

部屋に入ると、先生は快く迎え入れてくれ、そもそもこの研究テーマはなんのために行うのか、なにが面白いのかを、それはそれは楽しそうにお話してくださいました。

またよく聞いてみると、どうも僕のテーマは先生がドクターの頃から取り組んでるものの一つで、これが実現したらどれだけ社会に有用なのかを、熱心に目を輝かせて語っていました。

学生、ドクター、助手時代のさまざまな苦労や、嬉しかったことを具体的に話してくれて、それを聞くのはとても楽しかったです。

 

僕は今まで、研究者という人たちと接した経験がほとんどなかったので、どこかしら彼らは遠い存在のような、別の世界に生きる人たちだと思っていたので、研究室や研究テーマも、特に深く考えず選びました。

しかし、お話を聞いて感じたのは、先生はただ趣味が研究というだけで、それ以外は僕たちと何ら変わらないということです。

 

「もし俺がこれを実現できたら、すげえカッコいいだろ?」

と僕に話す先生の姿は、間違いなく僕たちが友達に趣味を語るのと同じ感覚です。

先生は(少なくとも当時の僕のテーマを)実現できたらかっこいいかどうか、で行っていたと考えたら、とても楽しそうで、同時に羨ましくもなりました。

 

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人生において何十年も没頭できて情熱が消えない、そんなテーマをこの先生は持っていて、今も楽しんでる。

そんな人たちが研究者なのかなって、研究者が以前よりも身近に感じました。

 

長くなってしまいましたが、これらは一つの僕の思い出話です。

親よりも歳の離れた先生が、自分と同世代に思えた不思議な時間でした。

 

まあ、その後は先生のドンピシャのテーマで死ぬほど研究頑張りましたが。(笑)

それもいい思い出ですね……(笑)

 

【寄稿】うーろんちゃさん

 

 

――森野の感想

 

ご寄稿ありがとうございます。

「研究の面白さがわからない」という学生の方たちにぜひ読んでほしい、と思いました。

 

研究を始める前とか、始めたばかりの頃って、まだ研究のことほとんど何も知らないんですけど、それでも「なんか面白そう」って思わせてくれますよね。いい先生って。

たぶん研究ってどんなものでも、見る角度によっては面白く見えるんでしょうね。

いい先生はその角度を教えてくれる。

「ここから見たらこんなに面白いよ」って。

そう言われて初めて、僕たちにはその研究の面白さがわかる。

 

「研究が面白くない」とか、「自分は研究に向いてない」とか思ってる人にどうか伝わればいいなと思います。

「研究者は特別な人たちで、だから研究を面白く感じる」というわけではないんですね。

ただ研究の見方が少し違うだけ。

 

うーろんちゃさんの先生みたいな研究者に、これからもたくさんの学生が出会ってほしいなと思います。

結局、どんな研究をするかというよりは、誰と研究をするかが、研究を面白くするためには一番大事だという気がします。

 

つまり、大人でも夢中になって自分の好きなことをしている人がいる、ということ。疲れた顔をして、愚痴を言いながら、社会の歯車になっていくだけが人生ではない、という救いの道が一つ示された。そう……、そう考えると、その当時の僕の興奮が理解できるかもしれない。

 だから、神様たちはここにいたのか、というふうに、僕は大学という場をイメージしたのだと思う。世の中は捨てたものではない、とやっと信じることができた。二十代の前半でこのことを知ったのは、本当に「救い」だった。知らないまま社会に出ていたら、僕はずっと人間の価値がわからないまま生きていくことになっただろう。心のどこかでは必ず人を疑っている人間になってしまっただろう。大袈裟ではなく、この歳になってやっと信じられるものを見つけた気がしたのだ。

 

森博嗣『喜嶋先生の静かな世界』pp. 69-70