「論文を書くことは技術である。技術を習得するのに才能は要らない。理にかなったことを地道にトレーニングすれば、技術は確実に向上する」*参考『論文の書き方』石黒圭
私はこのことを学生の時に教わりました。
そして今日まで書いてきた論文のいくつかは、幸いにして少なくない数の人々に読んでもらうことができました。
この記事では、私が論文を書く技術を習得する上で役に立ったウェブサイト・文献を11個紹介します。
これから初めて英語で論文を書こうとする人に、特におすすめのものを選びました。
以下では、それらを目的別の項目(論文の書き方、英語の使い方、図表の作り方など)にグループ分けして紹介します。
論文の書き方
木下是雄
定番の一冊。
科学論文を書くために必要な基礎知識が網羅されています。
- 立案の仕方
- 文章の組み立て方(序論・本論・結び)
- パラグラフの作り方
- 文の構造
- 事実と意見の違い
- わかりやすく簡潔な表現方法、など
酒井聡樹
略してこれ論。
書き始め〜出版までのプロセスが具体的に、ユーモアを交えて解説されています。
- 論文の面白さとは驚きの大きさである
- イントロには「何をやるのか」とともに「どうしてやるのか」もしっかりと書く
- 論文を書くというのは、自分の主張を小さくしていく作業である、など
3. Whitesides' Group: Writing a Paper
George M. Whitesides (Adv. Mater. 2004,16, No. 15)
論文執筆法の伝説的な解説記事。
「いつ論文を書き始め、どのように完成させていくべきか」という執筆の効率的な作業工程に関する解説があります。
- 研究の初期段階で論文を書き始める
- 研究を進めていくと同時に論文もブラッシュアップしていく
- これを知っているだけで論文の執筆効率が上がる
日本語の解説がこちらのサイトでされています。
英語の使い方
4. 科学英語を考える
トム・ガリー
東大理学部の伝統。
論文からメールまで、英語による科学コミュニケーション全般の解説です。
- どれが指されているか読者が分からないときにtheを使うべきではない
- 「, which」と「that」の意味の違い
- 外国の研究者に「Will you~?」と頼んでいるのを想像してぞっとした、など
興野登、Bob Gavey
翻訳会社のコラム。
英単語の使い方が詳細に解説されています。
- because、since、asの使い分け方
- study, investigation, researchの微妙なニュアンスの違い
- %と℃の前にスペースを入れるかどうか、など
@hrsma2iさんのツイートで知りました。
6. Opinion: How can we boost the impact of publications? Try better writing | PNAS
インパクトの高い論文に関する調査記事。
よく引用される論文の特徴が紹介されています。
- 一人称を使っている(weとかI)
- 時間や場所で研究を位置づけしている(ここ20年ではじめてとか)
- 接続詞を使って文のつながりをはっきりさせる(therefore、セミコロンとか)
- 同じことは同じ単語で(同じ意味の別の単語を使ったりしない)
- 3つ以上名詞が並ぶことや、略語はできるだけさける、など。
7. ライフサイエンスコーパス
ライフサイエンス辞書
ウェブ英和・和英辞書。
単語を入れると実際の用例が見れます。
図表の作り方
8. 効果的な研究発表のコツ
鈴木喬(日本ゴム協会誌41巻(1968)3号)
米化学会パンプレットの和訳。
約60年前の記事ですが、グラフ・表・図・式の使い方について、基本的なことが全て書いてあります。
- 線グラフは傾向を示す、棒グラフは大きさを比較する
- 表はグラフに比して解釈を要する点で利用価値が劣る
- 下付き・上付き文字は一番小さい大文字と同程度以上の大きさにする、など
岡部正隆、伊藤啓
色覚障害のある人へ配慮した図やグラフの作成ガイド。
- 赤と緑は見分けにくいからマゼンタと緑を使う
- 色だけを変えずに線種やシンボルも変える
- 凡例を独立させて色だけで照合させるのではなく、図中に直接記入する、など
要旨の書き方
10. Nature投稿案内 p.11
nature asia
Natureのアブストラクトの作り方。
Natureに限らず、幅広い読者に論文を読んでもらうためには、要旨は具体的にどう書けば良いのかがわかります。
@ToyamaYjさんのツイートで知りました。
エディター・レフェリーとのやり取り
11. 英語論文の査読表現集
大田充恒
英語の査読表現集。
カバーレターやレフェリーへの反論を書くときにも参考になります。また、査読で言われがちなことを知ってると、よりアクセプトされやすい論文が書けます。
- This study will fall within the scope of ABC Journal.
- Could there have been~? (~の恐れはないか?)
- could be attribute to~? (~が原因では?)、など
以上です。
他にも素晴らしい文献やウェブサイトがありますので、今後ブログやツイッターでご紹介できればと思います。
ちなみに私が初めて論文を書いた時は、上のようなサイトや文献をほとんど知らなかったので、ひどい目にあいました。
その時のことをまとめた記事です。
最後に、論文を書くことは決して楽な作業ではありません。
ですが、自分が研究の中で見つけたこと、わかったことが論文として形になっていくのは、何にも代えがたい喜びがあります。
私がそれを知れたのは、今回ご紹介したような偉大な先生方が優れた論文の書き方を教えてくださったからです。
これから論文を書く人に、論文を書く技術を伝えていくこと、その助けに、この記事が少しでもなれればいいなと思います。