英語で研究成果を報告することは、研究者にほぼ間違いなく要求されることだとおもう。
ではこの国の研究者は研究時間を削って英語のトレーニングをするべきなのだろうか?
「英文校正費がないと論文がリジェクトされる」とツイッターでつぶやいたところ、英語で論文を書くことについて意見をいただいた。
研究費がないと終わることは知られていますが、研究するお金があっても、出版費がないと論文投稿できず、英文校正費がないとリジェクトされ、出張費がないと学会にいけず、業績がなくなって終わる。そこでこれら諸経費を自腹でまかなう研究者たちがざらにいる国があるらしい。ニホンっていうんですけど
— 森野キートス (@ki1tos) 2018年11月7日
特に造語辞典さん(@2323tohage)のリプが詳しい。
英語論文については別記事に書いたのでそちらを見ていただければ嬉しい。
今回は英語での学会発表について考えてみたい。
発表はなんとかなるけど質疑応答がムリな件
まだ大学院に入りたての頃、初めて国際会議に出席した。
ぼくが通ってた大学で開催されていたので面白そうだから行ってみた。
大きなホールを使って皆で一人の講演を聞くタイプの学会だった。
最初に聞いたのはどこかの准教授の方の講演。
日本人でパッション屋良に似てた。
屋良さんはスラスラ英語で話してた。
昔、国際会議でカンペを見ながらぶつぶつ話す日本人がいて会場の時が止まった、なんて話を聞いたことがあったけど、さすがに今はそんなことはないみたいだ。
と思った。
質疑応答の時間になって、前の方に座ってた外国人研究者の方々から次々に手があがる。
明らかに日本人よりちゅうちょなく質問しますよね。
マーク・ザッカーバーグに似た人が質問した。
正直言ってぼくはマークの質問の意味が全くわからなかった。
どう答えるんだろう?
屋良さん「Would you repeat it?」
これはぼくにもわかった。屋良さんも意味がわからなかったみたいだ。
そこからは地獄のような時間だった。
しどろもどろになる屋良さん。
それを配慮してかマークの質問はどんどん簡単で短い英語になっていった。
それになんとか答える屋良さん。
それでも答えがかみ合ってなかったらしい。
司会の先生が日本語で質問の意味を屋良さんに解説する。
屋良さんがそれに日本語で答え、司会の先生が英訳していた。
それを聞いたマークが
「uh-hun」
と少し悲しいような、さみしいような顔で言った。
そのとき見えたマークの横顔は今もよく覚えてる。
その日の帰り、ぼくは大学の図書館で英語の本を借りた。
(たしかこれだった気がする。実際の質疑応答が録音されてるやつ)
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ぼくらは質疑応答のために英会話教室に行くのか
先ほど屋良先生の発表を例にあげたけれど、英語で発表するとなったときに、多くの人が心配するのが質疑応答だろう。
発表は練習すればなんとかなるけど、質問に答えるのは練習のしようがないからだ。
そこで「あぁもっと英語を話せるようにならないといけない」とか思って、英会話教室に通いだしたりしちゃうんだよなぁ。あんちょく、あんちょく〜☆(ちなみにぼくはAEONに行きました)
で今、少しは英語が話せるようになって思うんだけれど、質疑応答がうまくいくかどうかと英語で会話が流暢にできるかどうかはほぼ関係ない。
ぼくが思う、質疑応答がうまくいかない理由は3つ。
- 発表者の専門知識が足りない
- 質問者の研究バックグラウンドが違う
- 専門用語の発音が悪い
1. 発表者の専門知識が足りない
大学院生の発表で質疑応答がうまくいかない理由はだいたいコレじゃないだろうか。
英語とか日本語とか関係ない。
純粋に知らないことを聞かれてるから、なんて答えていいのかわからない。
日本語の場合はまだ「〜ってなんですか?」って聞けるけど、英語の場合は最悪単語の区切りさえわからないから、聞きかえすこともできずパニックになる。
この場合、知らないしわからないことは仕方ないから、素直に「何言ってるかわからん」って伝えるしかない。
でも屋良さんみたいに「もう一回言ってください」だと、話が進まないかもしれないから、"I don't see what you mean. Are you asking 〜?" とか言って、相手が何を答えて欲しいのかもう少し探るといい。
対処法:専門知識をつける
2. 質問者の研究バックグラウンドが違う
学会にはいろんな研究をしている人たちが集まるから、一人ひとりが持ってる知識はそれぞれわりとバラバラなことが多い。
だからときどき異世界から質問がくるときがある。
質問はわかるんだけど、なんて答えていいのか全然わからん、みたいな。
そうだな、野球で例えると、私はバッティングフォームの研究していて、あなたはバットの専門家だとする。
私がバッティングフォームの研究発表した時に、あなたが「そこで使った金属バットってどれくらい曲がりますか?」って英語で聞いてきました。
そのとき私はどう思うかというと、「え?金属バットがどれくらい曲がるかって聞かれた気がするだけど気のせい?バッティングフォーム関係なくね?」→「うん、たぶんちゃんと英語聞きとれてないだけだわ。もう一回聞こう」→「やっぱり曲がるかどうか聞いてる。そんなのわかんない」ってなって「わかりません」って答える。
でも相手はバットの曲がり具合で最適なバッティングフォームも変わるはずだと思ってるから「わからないのはおかしいだろ」ってなって、「じゃバットの材質は何で、長さはどれくらいですか?」ってさらに聞いてきて、地獄のような状況になる。
この場合は、「バットの曲がり具合はわかりませんけど、〜の理由でフォーム(つまり自分の研究の結論)に影響はないと考えられます」って言えればいいんだけど、そのためにはバットの曲がり具合とフォームの関係について知識がないといけない。
対処法:専門外の知識もつける
3. 専門用語の発音がわるい
これについては、ぼくがとある生物系の国際会議の質疑応答でみた場面を紹介しようと思う。
"サンドイッチ事件"とよんでいる。
発表者はネイティブ・スピーカーのアメリカ人、サラだった。
その質疑応答でアジア系の研究者ヤンさんが質問した。
ヤン「そこにサンドイッチはあるか?」
サラ「はぁん?」
ヤン「タンパク質のその場所にサンドイッチはあるのか?」
サラ「あの…サンドイッチってどういう意味?」
ヤン「だからサンドゥイッチだよ。あのサァンドゥイッチ!」
会場がざわざわしだした。サンドイッチって一体なんだ…?
そこに聴衆のひとりが言った。
「もしかして…ソルトブリッジ(塩橋)じゃないか?」
会場は拍手に包まれた。
対処法:専門用語の発音はちゃんと調べる
まとめ
結局、英語の質疑応答であっても、うまくやるためには日本語の質疑応答と同様、専門分野に関連する深くて広い知識を養うことが一番だと思う。
あとは情報を正しく伝えるために、研究のキーワードの発音が正しく言えるようになっておけばなんとかなる。
発音がわかれば聞き取れるし、キーワードが聞き取れれば何を聞かれてるかだいたいわかるから。
発表を聞いてる人たちは発表者と友達になりたいわけではなくて、研究内容がわかればいいから。
だから質疑応答が不安だからといって、英会話教室に通う必要はないと思うし、そんな暇があるなら勉強した方がよいと思われます。
ちなみに、学会にはよく懇親会というものがあって、英語でこれを楽しもうと思うと、ぜひとも英会話教室の力が必要になってくる。ぼくは週一で通ってたのにヘラヘラしてるだけでした。あぁもっと英語が話せたらなぁ。オンライン英会話またやろうかなぁ。