先生って呼ぶのは無しで

先生は「先生」って呼ばれるのをきらってた。 私はそれを、先生の照れだと思ってた。 「先生なんてガラじゃない。フランクにいきましょう」みたいな。 でも私からしたら、それは逆にやりにくい。 大学にいるかぎり、先生は先生で、私は学生だ。 「先生」って…

論文を読む理由

大学へ通う電車の中で、論文を読んでいる人を昔よく見かけた。 その頃まだ学生だった私は、そんな人たちを見つけては、「卒論の時期だな」とか、「ゼミ発表が近いのかもしれない」と、論文読んでる理由を勝手に想像してた。 「なにも電車の中で読まなくても…

人は知ってることしか見えない

大学院に入ったばかりの頃、配属された研究室で研修を受けた。 僕は先輩について回って、実験機器を使ってみたり、実験ノートのとり方を教えてもらったりした。 ある日、先輩が先生たちとミーティングをするというので見学させてもらった。 そのときのことは…

質問しないことは悪いことなのか

「他に質問はありますか?」 と、先生が聞いた。 みんなは何も言わない。 「では、終わりましょう」 先生のその言葉で、研究室のセミナーは終わった。 私のいる研究室では、週に一度セミナーがある。 セミナーでは、研究室のメンバーが持ち回りで研究の進捗…

研究室訪問と恋

ひとめぼれだった。 夜7時の渋谷駅、井の頭線の改札前で僕は彼女に会った。 長くて黒い髪、まっしろな肌、ネコみたいな目。 彼女を見たとき、駅の喧騒が遠くなった気がした。 「佐倉です。はじめまして」 彼女がそう言った。 僕は頭を下げた。 グリーンのパ…

「わかった」にとりつかれて研究者になる

図書館に行くのが好きだ。 書架に並んでいる本を眺めながら歩いていると心が落ち着く。 研究室での作業に疲れたときは、よく図書館に行ってただぼんやりと歩いている。 静かな空気や紙の匂い、絨毯をふむ感触が好きだ。 晴れた日には窓際の机につっぷして寝…

なぜ博士号をとったのに大学教員にならないのか

春が来て、僕の少ないポスドク(博士研究員)仲間たちがまた何人か大学を去っていった。 一流大学で博士号を取り、一流論文誌に研究を発表した彼らが、それでも大学教員になることをやめた理由はさまざまだ。 お金だったり、子どもだったり、別にやりたいこ…